「図書館ってこんなに楽しい空間だったんだ!」。
石川県金沢市にある「石川県立図書館」は、来る人をそう思わせる、全国でも注目の図書館です。
今回は、建築士の視線から、その魅力をたっぷりご紹介します。
1,「本をめくる」ような外観デザイン
建物を遠くから見ると、ちょっと落ち着いた四角い形の建物のように見えます。
でも建物の外壁が、少しずつ斜めにずらして配置されています。
ちょっと外壁が「本を1ページずつめくっている」ようにも見えます。
頁(ページ)と頁の間に窓が付いています。
窓が同じ面を向いていないので、あまり直射日光が入らず、柔らかな、やや開放的な光が期待できます。
本を日焼けしないようにしつつ、光も取り入れる工夫がありますね。
建物の外壁には自然に馴染むやわらかい色のタイルが使われ、周囲の芝生の広場と一体になったような風景が広がっています。
まるで公園の中に本が置かれた、そんな印象です。
2,劇場ようなエントランス空間
図書館に入ってまず目に飛び込んでくるのが、広々としたエントランスホール「室内広場」です。
大きなガラス窓から光が差し込み、温かくやさしい木の天井と壁に包まれたこの空間は、まるで劇場の待合ホールのようです。
開演を待つ人々のざわめきが聞こえてきそうな、そんな高揚感があります。
この室内広場は、ただ通り過ぎるだけの場所ではなく、人と本、人と人をゆるやかにつなぐ“間”のような役割を果たしているのかもしれません。
3,まるで円形劇場!本棚が観客席に見える図書室
石川県立図書館の図書室は「グレートホール」と呼んでいるそうです。
屋内広場から図書室に入った瞬間、思わず「すごい!」と声が出るほどの壮大な美しさがありました。
入口を入ってすぐ目に飛び込んでくるのが、4階まで吹き抜けになった大空間!
段上にぐるっと取り囲こまれた本棚は、まるで劇場の観客席のようで、円形劇場の舞台に立っているいる感覚でした。
2階から上の書棚は、入り口付近を中心に360度囲まれています。
4,楽しみ方いろいろ、歩いて巡る図書ホール
・階段状の書棚
入り口付近から2階の書棚に行くのに、エスカレーター、階段、スロープといろいろな選択ができるようになっていました。
見ていると子どもは階段を駆け上がり、年配者はエスカレーターでゆっくり昇ってゆく傾向がみられました。
女性の背丈位の、低く短い書棚が、段状に設置されています。
書棚のあいだの細い階段が、まるで小道のようで、本の森を散歩する気分にさせてくれます。
2階書棚へ繋がるスロープは、企画展示コーナーも兼ねています。
そこには「本との出会いの窓」と呼ばれる窓の形をした書架やデジタルウィンドウがありました。
・さまざまなイスのある閲覧スペース
3階は閲覧コーナーがあります。
さまざまな椅子が500席分あるそうで、自分の気に入った椅子で読むことができます。
上の画像は4階から写した3階部分ですが、円形になっているのがよくわかります。
この図書館の愛称は「百万石ビブリオバウム」というそうで、図書を意味するイタリア語の「ビブリオ」と、「年輪」を示すドイツ語の「バウム」を組み合わせたそうです。
確かに年輪に見えますね。
・最上階はリング状の書庫
最上階の4階は回廊式(リング状)の通路に、書庫と閲覧スペースのある空間です。
本に関する歴史のスペースで、1周することによりより詳しく書籍や図書館がわかるようになっているとのことです。
また下の円形の景色が良く見え、噴火口にいるような感じでした。
・この章のまとめ
一般的な図書館の整然と並ばれた書棚とは違い、坂道を歩きながら本を探すようになっています。
「ゆっくり歩きながら探す」スタイルは、普段の図書館にはない楽しさがあるのが、石川県立図書館の魅力だと思います。
4,空間を楽しむ仕掛けたち
・3階には館内を結ぶブリッジ
3階には吹き抜けを横断する「ブリッジ」と呼ばれる通路が架かっています。
ショートカットが出来ます。
気分転換したい時には、橋を渡ったり館内の山坂をちょっと散策するのがよいかもしれませんね。
・広々とした「こどもエリア」
最近の図書館は子供の図書コーナーが広くなっていますが、石川県立図書館はかなり広い空間が取られていました。
自由に走って遊べる空間もありました。
このエリアは1階にあり、2階3階の書庫展示エリアの下で図書エリアとは距離的に離れています。
そのため、子供が声を上げて騒いでも聞こえないかと思います。
図書室の近くに子供コーナーだと、親は子供を静かにさせないとならないプレッシャーがありますが、ここはそのストレスがないのが良いところだと思いました。
気兼ねなく自由に遊べるので、小さなお子様のいるご家庭におすすめですね。
書棚もいろいろユニークなものもありました。
円形の書棚の上に階段を設けたらせん階段式書棚。
もちろん、上の大人のエリアとはつながっていない行き止まりの階段です。
・木のぬくもりとやわらかな光
図書館の内装には、木材がたくさん使われてやさしい感じがします。
天井のルーバー(格子状の板)は石川県産の杉、床材には、県木の能登ビバが放射状に張り巡らされています。
天井から入る自然光もやわらかく、時間帯によって陰影が変わっていきます。
照明も明るすぎず暗すぎず、とても気持ちの良い空間でした。
・金沢らしい伝統の色彩
石川県立図書館の外観と内装は、金沢らしさを感じさせる赤茶の「弁柄(ベンガラ)色」を基調にデザインされています。
弁柄色は、かつて町家や蔵にも使われていた伝統の色で、落ち着きと品格を建物に与えています。
さらに館内では、「加賀五彩」(藍・臙脂(えんじ)・黄土・草・古代紫)の4色が方位ごとに配され、各エリアに個性と彩りを添えています。
書棚の上の照明の光の色も、エリアごとに違っています。
吹き抜け天井には兼六園内にある成巽閣でも見られる深い青色が用いられ、空間に静けさと奥行きを感じさせます。
天井エリアの深い青色は、もしかすると加賀五彩の残りのひとつ、藍色なのかもしれませんね。
参考サイト、成巽閣「群青の間、書見の間」(室内は一般撮影禁止)
石川県立図書館は、金沢の文化と美意識が、配色からも丁寧に表現されていました。
5,石川県立図書館の設計者
・建築家「仙田満」~人の集まる建築作品を多く設計
この図書館の設計をしたのは「仙田満+環境デザイン研究所」です。
建築家の仙田満(せんだ みつる)さんは、環境デザイン研究所の創設者で、現会長です。
「富山県こどもみらい館」や「兵庫県立但馬ドーム」のほか「MAZDA Zoom-Zoom (マツダ ズームズーム)スタジアム広島」の球場など代表作があります。

兵庫県立但馬ドームの外観

マツダズームズームスタジアム広島
・人の行動を促す「遊環構造」を提唱
仙田満さんは子どもの遊びの環境の研究を重ね、「こどものあそび環境」「子どもとあそび」など数多くの著書を執筆されています。
その研究をもとに人の行動特性も注目し、「遊環(ゆうかん)構造」という建築コンセプトを提唱しました。
これは、建物の中に複数のルートや広場などの仕掛けを設けると、人が自然といきいきと動き出し、空間をより自由に使えるようになる設計の考え方です。
この遊環構造システムを生かし、野球スタジアムなど人の集まる建築を数多く設計されています。
画像、富山県立こどもみらい館
今回の図書館にもその考えがしっかり活かされていて、大人も子どもも「動きながら学べる」空間になっていたと思いました。
6,最後に、誰もが楽しめる図書館
石川県立図書館は、ただ本を読むだけの場所ではなく、訪れた人が「空間そのものを楽しむ」ことができる、新しいかたちの図書館でした。
劇場のような吹き抜けの本棚に、自然光が降りそそぐ明るい室内広場。
子どもも大人も思わず歩き回ってしまうような遊び心のあるデザイン。
そして、加賀五彩や弁柄色といった金沢らしい色彩が、建物全体にやさしく溶け込んでいます。
建築を学んだ身としても、この図書館の「人が集まりたくなる工夫」や「地域の文化への敬意」が随所に感じられ、非常に心を動かされました。
静かに本を読む時間も、家族や友人と過ごす時間も、誰かとの偶然の出会いも。ここでは、すべてが「豊かな体験」になる気がします。
観光で金沢を訪れた際には、ぜひこの空間を体感してみてください。
図書館の概念が、きっと少し変わるはずです。
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