世界中で人気のある建築家「フランク・ロイド・ライト」が設計した旧帝国ホテルを見学してきました。
かつて「東洋の宝石」と呼ばれた美しさを持つ建物です。(ちょうど完成して100年!祝)
建築のことだけでなく、様々な出来事やエピソード、札幌との関わりなども書いてゆきたいと思います。
目次
1.「旧帝国ホテル」は、数少ない日本でみられるライトの作品
2,帝国ホテルの外観の特徴
3,近代建築に影響を与えたデザイン
4,ライトの空間的な特徴
5,椅子などの家具や照明器具もライトがデザイン
6,ライトが好んだ柔らかい光
7,札幌とのつながり
8,最後に
1.「旧帝国ホテル」は、数少ない日本でみられるライトの作品
・フランクロイドライトは近代建築の巨匠
旧帝国ホテルを設計したフランクロイドライトさんはアメリカ人で「近代建築の3大巨匠」と呼ばれる偉大な建築家です。
2019年には彼のアメリカでの建築された8棟もの建物が、世界文化遺産として登録されています。
フランクロイドライトさんのポスター
・中央玄関を愛知県犬山市の明治村に移築
フランクロイドライトさんが日本で設計した「旧帝国ホテル本館」の中央玄関部分は、愛知県の犬山市の「博物館 明治村」で保存されています。
ライトさんが設計されたので、「ライト館」とも呼ばれています。
もともとは、東京の1等地、日比谷公園近くに建築されていました。
建て替えの際に、客室棟の正面玄関部分を明治村へ移築されました。
・明治村は明治の建物がいっぱい。でもライト館は大正時代の建物?
ちなみに明治村は、明治時代の文化や歴史を学べるように明治時代に建てられた67棟もの建物があります。
旧帝国ホテルは大正12年に完成されたので、明治時代のものではないのですが、明治村へ移築されました。
なぜそうなったかというと、もともとは東京で保存する計画でしたが、保存する多額の費用がネックで難航していたところ、首相が勝手に記者会見で「明治村に移設します」と発言してしまったとのこと。
移設費用も政府が協力する形で難題も解消し、保存先で困っていたようなので明治村も大正時代の建物を受け入れることにされたようです。
明治村ホームページ https://www.meijimura.com/
明治村は、イベントも行われていて観光スポットにもなっています。
2,帝国ホテルの外観の特徴
・ワクワク感もあり、威厳もある外観
ライトさんの建築の特徴は、水平と垂直が強調された左右対称の直線的な力強い外観のデザインです。
さらに外壁の素材は石やタイルで仕上げられているので、重厚な感じがします。
また、いたるところに装飾された飾りが外壁に取り付けられています。
アクセントの飾りは、独特の幾何学模様をしていて見飽きることがありません。
模様が楽しげなので建物に入るのが、ワクワクする感じです。
・日本の寺院に影響を受けた左右対称のデザイン
旧帝国ホテルの外観は、両翼が広がるような左右対称のデザインになっています。
帝国ホテル 東京 | 公式サイト (imperialhotel.co.jp)
ライトさんは若いころ、シカゴ万博の平等院鳳凰堂をモデルにした建物を見ており、その際に両翼が広がるデザインに大いに関心を寄せていたといわれています。
(京都の平等院鳳凰堂は10円硬貨にも使用されています。)
・軒の出が「エモい」デザインに
屋根部分は、日本家屋にあったような軒を出しているデザインになっています。
近代建築では軒は出さないものが多かったので、西洋と日本が合わさったデザインになりました。
ちょうど当時は、近代化が進み日本的な建物も減ってきたので、日本の面影もあるデザインは、日本人の心に受け入れらえたのかもしれません。
今の若者が言う「エモい(ノスタルジックな、懐かしい)」建物だったのかもしれません。
(後述しますが、光の関係もあったようです。)
・地震にも火災にも優れていた建物
帝国ホテルは開業しようとしていたのが、大正12年9月1日の関東大震災の日でした。
地震発生後、周りの多くの建物が倒壊や火事などの被害を受ける中、帝国ホテルはほとんど無傷だったといわれています。
建物は鉄筋コンクリート構造(一部煉瓦コンクリート造)で出来ていました。
ホテルは一つで繋がっていましたが、玄関棟や客室棟などを10個のブロックで分けられていました。
10個のブロックはそれぞれ独立した建物にしていたため、一部の建物が地震の影響を受けても他には影響が出ないように工夫されていました。
ちなみにこの建物を完全にくっつけない構造の考え方は、現在でも大いに耐震性を発揮できる設計手法としていろいろな建物に取り入れられています。
(建物同士の継ぎ目のことをエキスパンションジョイントと呼ばれています。)
・火災から建物を救った池
正面玄関の前には、大きな池があります。
平等院の前が池だったからというのもあるのかもしれませんが、防火水槽ののために作られたとも言われています。
これは憶測ですが。池を設けたのはライト館を建て始めて3年間の間に、帝国ホテルは古い本館と別館がそれぞれ全焼したアクシデントもあったからかもしれません。
関東大震災の際はこの池の水があったため、ライト館は延焼を防げたとのことです。
関東大震災で地震や火災で東京が焼け野原になってしまったのにこの建物が残ったのは偶然ではなく、設計段階からきちんと対策をしていたからだったのですね。
災害対策をしておくということは、家を設計するうえでも大事なことですね。
耳寄り情報
ライト館は、1923年8月完成ですので、今年(2023年)でちょうど100周年です。
期間限定で帝国ホテル東京で、企画展示「The Wright Imperial; A Century and Beyond」を行っているようです。
当時の客室の一部も再現されているようです.
フランク・ロイド・ライトと帝国ホテル | 帝国ホテル 東京 (imperialhotel.co.jp)
3,近代建築に影響を与えたデザイン
・影響が大きかったスクラッチ(割れ目)模様
帝国ホテルの建物で目を引くのが、仕上げ材が表面に溝があるデザインのスクラッチレンガが使用されていることです。
表面に溝があるレンガは光が反射しないので、重厚感が出ることが特長です。
スクラッチ煉瓦は帝国ホテルが、最初に使われたといわれています。
関東大震災で無傷だったこともあり、のちの日本の近代建築に多く使用されることになりました。
ライトは日本の建築に合うのは西洋建築の赤レンガ色ではなく、黄色い煉瓦(スダレ煉瓦)の色ではないかと考えたようです。
この色の建物も人気を博しました。
当ブログの「有名なな建物を見学しましたPART2」で紹介いたしました前田邸も黄色いスクラッチタイルでした。
移転された帝国ホテルでは、昔からあるレンガと新しく作られたスクラッチタイルが混在しています。
説明では手前にあるのが建築当初のレンガで、奥の壁が新しく作られたスクラッチタイルとのことでした。
手前のものは劣化してきていますね。
これはスクラッチ煉瓦はそのままの素材の色を生かすため、表面にコーティングできる釉薬を使用せずに焼くので、吸水率も高く表面が傷みやすい性質があったためです。
明治村に移設された以降のスクラッチタイル
現地の係員さんは、昔は薪で焼いて作っていたので品質が現在のものと比べて良くなかったとの説明もありました。
ちなみに、このレンガを作ったのが愛知県常滑市の伊奈さんの会社で、その後、伊奈製陶という会社になりINAX(イナックス、現在LIXIL)と日本を代表するタイル会社になりました。
INAXの歴史 https://www.inax.com/jp/about-inax/heritage/
・絶妙な組み合わせの大谷地石
大谷石もライト館の大きなデザインの特徴で、豊富に使われています。
大谷石は加工がしやすいところが特長です。
帝国ホテルではライトが描いた複雑な模様を、石工さんが手作業で大谷石に彫り上げられたといわれています。
正面玄関前の池には、2人の衛兵が向き合うようなデザインの大谷石が来場者を迎え入れています。
2人の衛兵が向き合うような旧帝国ホテルの玄関
・球体の珍しいライトのデザイン
玄関前の車寄せスペースには、大谷石で作られた大きなツボもあります。
曲線をあまり好まなかったライトの作品では、球体は珍しいデザインとといわれています。
4,ライトの空間的な特徴
・変化のある空間が印象的
玄関に入ったところの天井は低いのですが、ロビーは大空間の吹き抜けになっています。
玄関ドアの天井は低く感じます。
中に入ってもフロントのあたりはまだ天井は低いです。
ロビーに行くと大きな吹き抜けになっています。
低いところを通ってくるので、余計に開放感があります。
柔らかい光が差し込むロビーになっています。
・目を引く照明を兼ねた飾り柱
ロビーの四隅には、スクラッチタイルや大谷石、テラコッタ(素焼きの焼き物)で出来た「光の籠柱(かごばしら)」と呼ばれる3階まで伸びる照明を組み込んだ柱があり、目を引きます。
一説によると、日本の行燈(あんどん)をイメージしたのではないかともいわれています。
光が漏れてくる部分はテラコッタです。
装飾もライトの細かいデザインに目を引きますが、すべてが手作りですので、作られた職人さんたちにも敬服いたします。
・屋外と屋内が繋がりを見せる有機的建築
内壁も、外壁と同様、スクラッチタイルや大谷石で出来ています。
屋外と屋内の仕上げが同じなので、どこからどこまでが外だったのかがあいまいになっています。
玄関そばのフロントと玄関の外の外壁は同じ仕上げになっています。
ライトは、室内にいながら屋外にいるように、屋外から見ると室内が自然の一部であるような空間が連続しているイメージの建築を目指していました。
専門家の中ではこのような建物を有機的建築と呼んでいます。
ちなみに日本家屋の縁側も外部でもあり、内部でもあるという空間です。
ちょっとイメージ的に似ているかもしれません。
・スキップフロア、中間階のある間取り
ライト館の2階は、ロビーの吹き抜けを中心にぐるりと回れる動線になっています。
2階へは階段で中2階などを経て、上がれる間取りになっています。
中2階など中間階がある間取りのことをスキップフロアと言います。
スキップフロアは部屋ごとに天井高さも違うので、立体的な変化が生まれます。
・スキップフロアで空間的変化のある間取りに
帝国ホテルは階段ごとにスキップフロアがあるので、空間的な変化も楽しめます。
天井高さが変わるので空間も変化が生まれます。
下の写真の中間階は2階から数段だけ低くなっています。
下げた上部にはバルコニーのような踊り場があります。
天井も変化に富んでいます。
昔は、スキップフロアの間取りを依頼されることもありましたが、最近は高齢化も進み、なるべく段差のないバリアフリーの家が好まれるようになりました。
もし「空間の魔術師」と呼ばれたライトさんが今の時代に生きておられたら、どのような高齢化対策の設計をするのかなど想像するのも楽しいかもしれませんね。
・階段のまわりも装飾がいっぱい
階段周りには様々な飾り壁などもあるので、2階に上がるのも苦にならないといった感じです。
階段裏にも見事な装飾があります。
階段の登り口に、壁泉があります。
営業していたころは水が流れていたとのことです。
通常、庭につけるものですが、室内につけられました。
水が落ちてゆく様子は空間的変化もあったかもしれませんが、流れる音などはリラックス効果があったかもしれんせんね。
5,椅子などの家具や照明器具もライトがデザイン
・当時の椅子に座ることができる
ライトは、帝国ホテルの椅子やテーブルなどの家具や照明器具、食器のデザインまで手掛けていました。
テーブルとイスは複製したものが多いようです。
帝国ホテルで使用されていた大食堂のテーブルとイス。
大食堂だったところは、現在は喫茶コーナーになっていて、飲食できるようになっています。
私が行った日は残念ながらお休みでした。
・人気のあったピーコックチェア
旧帝国ホテルの宴会場「孔雀の間」(ピーコックルーム)に置かれていた椅子は評判もよく、ライトのピーコックチェアと呼ばれていました。
これは当時のものが残っていて、自由に座ることができます。
現地の説明していただいた方のお話だと、一脚30万円くらいではないかとのことでした。
・照明は当時のものを復元
照明器具は当時のものは残しておらず、同じデザインで復元したそうです。
ライトは、直接明かりが見えるシャンデリアのようなきらびやかな豪華な照明は好んでいませんでした。
下のフロアスタンドは、周りの飾りやテーブルの形にもあう照明器具ですね。
ライトさんの照明器具は販売しています。
楽天市場フランクロイドライトの照明器具
・コーナーは籠柱の照明
ライトさんはコーナーを作るのを嫌ったとのことで、建物の角などは、照明も兼ねた飾り柱(光の籠柱)も多く見受けられました。
部屋の角も「光の籠柱」に
・食器もデザイン
ライトさんは帝国ホテル用に食器もデザインされました。
右の2枚がライト氏のデザインのお皿です。
なかなか建築家で食器類までデザインすることはないので、調和を目指したライトさんの強い思いが感じられますね。
6,ライトが好んだ柔らかい光
・間接的な光が入れられる庇
ライトさんは照明器具と同様に、陽の光も直接的な光を嫌っていたと言われています。
庇(ひさし)を付けることにより、間接的な日光が入るようになりました。
・デザインのある銅板の庇
庇にはデザインのある銅版がつけられています。
銅板にも様々な模様が入っています。
窓から光はこのように入ってきます。
日の傾き方によって銅板の模様が変化して、陽の光も楽しめそうですね。
・ステンドガラスの光
窓やドアに、ステンドガラスも使われていました。
正面玄関の玄関ドア
室内の窓も変化があって楽しいですね。
市松模様や千鳥配置など日本的ですね。
7,札幌とのつながり
・ライトさんのお弟子さんも札幌で活躍
ライトさんは、いろいろな事情で帝国ホテルの完成を待たずに日本を離れています。
帰国後は、弟子の遠藤新さんらが引継ぎ、完成させました。
帝国ホテルを手伝ったお弟子さんの田上義也さんは、関東大震災を機に北海道へ移住し、洋風建築を多く設計されました。
旧小熊邸。
現在は喫茶店になっています。
こんな子供向けの施設もあります。
小熊邸とこぐま座って、ちょっと面白いですね。
こぐま座は札幌の中島公園の中にあります。
ちなみにこぐま座と徒歩1分くらいところに向かい合って建っているのは、札幌パークホテルです。
札幌パークホテルは、3大巨匠のひとりコルビジェさんのお弟子さんの坂倉準三さんが設計されました。
(近代建築の三大巨匠は、「フランク・ロイド・ライト」「ミース・ファン・デル・ローエ」「ル・コルビュジエ」です。)
これも、ちょっと面白いですね。
8,最後に
ライトさんが設計した帝国ホテルは、地盤の不同沈下と客室数が少なかったため、1968年に惜しまれながら解体されました。
現在、日本でライトさんの建物が見学できるのは、この愛知県明治村の旧帝国ホテルとヨドコウ迎賓館/旧山邑家住宅(兵庫県芦屋市)、自由学園明日館(東京都豊島区)の3つだけです。
最初にお伝えした通り、ライトさんのアメリカの8つの建物はユネスコの世界遺産になっています。
またライトさんの設計でアメリカ以外で見られるのは実は日本だけなので、旧帝国ホテルは大変貴重な建物になります。
ライトさん設計のヨドコウ迎賓館の模型は、明治村の内閣文庫の建物の中で展示されていました。
・ちょうどライト館は100周年
あまり知らなくても、今回見学した旧帝国ホテル(ライト館)は空間演出や装飾性は十分楽しめるのかと思います。
現地にはボランティアのガイドさんもおりますので、話を聞きながら回るのも楽しいかもしれません。(私についた方は、偶然にも1週間前に北海道旅行に来ていたとのことでした。)
ちょうど旧帝国ホテル(ライト館)は100年前の1923年9月に完成しましたので、今年は記念の年にもなります。
この機会に、ご見学してみるのはいかがでしょうか。
いろいろな建物を見るのは、家づくりの参考にもなります。
私は30数年ぶりに見学いたしましたが、学ぶべきところは多かったと思います。
今後の皆様の設計に、役立てて行ければと思っています。
過去の書いた関連ブログがありますので、よろしかったらどうぞ。
・日本でライトが設計した住宅
・欧米と日本の間取りの違いは?
・帝国ホテルに類似していると案内文に書かれた建物
・ライトのお弟子さんの建物と向かい合うコルビジェのお弟子さんの建物
・世界文化遺産に登録されている近代建築の日本の建物
・間取りでは階段の位置が重要になる
・設計者に間取り依頼するコツとは
・地震に強い建物にするには
・関東大震災に学ぶ、災害から身を守るには
・函館の田上義也設計のプレイリーハウス
・ライトの設計を家を建てる際に役立てるコツ
今回のブログが、みなさまの住まいの参考になりましたなら幸いです。
最後までお読みいただき感謝いたします。
あなたの住まいがより良くなり、楽しく幸せに暮らせる家が建てられますように。
・ブログを書いている設計士の紹介
田中昭臣(たなかあきおみ)1級建築士、宅地建物取引士
建築設計事務所「ライフホーム設計」代表
*注文住宅の主としたハウスメーカーで設計を経験し独立。
(建築実績100棟以上、現在も月に2,3棟の間取り設計に関わる)
貴方の想いをカタチに、一緒に作る住マイルな住まいを目指しております。
詳しいプロフィールはコチラ
・北海道札幌の設計事務所「ライフホーム設計」のこと
・新築の間取りの設計
あなたの「思い」を「かたち」に「一緒に作る」注文住宅。
対話を大切し、住みやすい間取りのオシャレなデザイン住宅を作ります。
北海道の札幌市近郊のの一戸建て、新築、建て替えの平屋建て、二世帯住宅など注文住宅の間取りのお悩みは、「ライフホーム設計」で個別相談を!(初回相談は無料)
札幌市近郊(江別市、北広島市、恵庭市、千歳市など)は出張交通費無料です。
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