「老後のことを考えた間取りにしたい」というご相談が、50代のお客様から増えています。
元気なうちに計画しておくことで、将来の安心が大きく変わります。
今回はシニア向けの間取りのポイントを、バリアフリーと介護動線を中心にお伝えします。
1.なぜ50代から考えるのか
注文住宅を建てるとき、「老後の間取り」はつい後回しになりがちです。
しかし、住んでから「引き戸にしておけばよかった」「廊下をもう少し広くしておけばよかった」と気づいても、リフォームで直すには思いのほか費用がかかります。
新築時に老後のことを少し意識しておくだけで、将来の大きな出費や不便を防ぐことができます。

また、60代・70代になってから建て替えや新築を検討すると、住宅ローンが組みにくくなるという現実的な問題もあります。
元気に動けて、ローンも組みやすい50代のうちに、将来を見据えた間取りを考えておきましょう。
2.理想は平屋
老後の暮らしを考えたとき、理想は平屋です。
寝室・トイレ・洗面所・浴室をすべて1階に配置できるため、階段の必要がなく移動が楽になります。
また将来的に車いす(車椅子)生活になっても問題なく暮らせます。
平屋はシニアの暮らしに多くのメリットがあります。
▶ 参考ブログ:平屋でおしゃれな設計の注文住宅

ただし、平屋は2階建てと同じ延べ床面積を確保しようとすると広い敷地が必要になり、建築費も高くなりやすいのが現実です。
2階建てでも間取りの工夫次第で、老後も快適に暮らせる家は十分に作れます。
次の章でそのポイントをお伝えします。
3.敷地の関係で2階建てになる場合
敷地や費用の都合で2階建てになる場合も、老後を見据えた工夫ができます。
階段は緩やかに・踊り場を設けられるのが理想
2階を使う期間がある場合は、階段の勾配を緩やかにしておきましょう。
最近の住宅では1段あたりの奥行き(踏面)が約22.5cm、高さ(蹴上)が約19cmで、15段で2階まで上がる階段が多く見られます。
これを16段・17段にするだけで1段あたりの高さが低くなり、足への負担がかなり軽減されます。
間取りも大きく影響を受けないと思いますので、ぜひ検討してみてください。

また、中間に踊り場が設けられるのが理想です。
万が一つまずいても転落距離が短くなります。
ただし踊り場付きの階段は設置スペースが広く必要になりますので、間取りの都合に応じて検討してみてください。

転落防止の点からすると直線階段はできれば避けたほうが無難です。
▶ 参考ブログ:2階リビングの後悔しない間取り③
2階に寝室の間取りは、トイレと洗面台も近くに
2階に寝室を配置する場合は、トイレと洗面台も同じ階の近くに設置することをおすすめします。
夜中や体調がすぐれないときに、わざわざ1階まで下りなくてもトイレに行ったり、洗面台で歯を磨いたりできるからです。

実際に医師の方の家を設計する際、「寝室の近くにトイレを、トイレを出たところに洗面台を置いてほしい」とおっしゃる方が多いです。
夜間のトイレや体調管理の大切さを知る医師ならではの、経験に基づいた要望なのだと思います。

将来の寝室を見越した小部屋を1階に作っておく
1階に寝室を作るほどの余裕はなくても、小部屋程度であれば作れる場合もあります。
資金や敷地条件が許すようであれば、将来寝室に転用できる小部屋を1階に作っておくのもひとつの方法です。
クローゼットを含めて3.5〜5帖程度あれば、十分な寝室として使えます。

今は書斎や趣味の部屋として使いながら、将来は寝室に切り替える。
そんな「先を見越した間取り」を意識しておくことが大切です。
▶ 参考ブログ:30代の間取りの考え方

お孫さんがいれば、お泊りの部屋としても使えます。
4.バリアフリー・車いす対応と介護動線の間取りのポイント
老後の暮らし、車いすや歩行器の使用、介護が必要になった場合、いずれも間取りで気をつけるポイントは共通しています。
元気なうちに少し意識しておくだけで、将来の備えができます。

引き戸を基本にする
車いすに座った状態で開き戸を開けるには、ドアを引きながら車いすを後ろに下げるという同時動作が必要になり、一人では難しいことがあります。
引き戸であればスライドするだけなので、車いすでも一人でスムーズに開閉できます。

各部屋のドアは引き戸を基本で考えてみましょう。
特にトイレ・浴室・寝室は必ず引き戸にしておきたいところです。
でも、どうしても引き戸が取れない間取りの場合は、折れ戸タイプというのがあります。
次の第5章「トイレの間取りのポイント」で詳しく説明していますので、ご参考にしてください。
段差をなくす
室内の段差は転倒の原因になります。
家の中は段差をなくし、フラットな床にしましょう。

見落としがちなのが玄関とポーチ床との段差です。
ここが大きく段差があると、車いすは入りにくくなります。
バリアフリー配慮 | 玄関ドアの教科書 | YKK AP株式会社
廊下・ドア幅は予算に応じて
メーターモジュール(廊下幅約90cm)にしておくと車いすも通りやすく、手すりをつけてもゆとりが生まれます。
ただし建物の面積が増えるため建築費が上がります。
資金に余裕があれば検討したい選択肢です。

一般的な住宅の廊下幅は約78cm程度です。
市販の細いタイプの車いす(幅約60cm)であれば、この標準的な廊下幅・ドア幅でも通ることができます。
予算とのバランスで割り切ることも大切です。
寝室はトイレの近くが理想
高齢になると夜中にトイレに行く回数が増えてきます。
特に寝室→トイレの動線が最短になるように間取りを組むことが、老後の暮らしやすさに直結します。
間取りで可能なら、なるべく寝室の近くにトイレを持ってくるようにしましょう。
音が気になるかと思いますので、隣接はさせないほうが無難です。

ただ体の具合によっては、トイレと寝室を隣接させるケースもあります。
そのへんは状況に応じて柔軟に考えられてもよいかもしれません。
手すりは廊下・トイレは先行下地、浴室は最初から設置
廊下・トイレ・玄関は、後から手すりを取り付けられるよう、壁の中に補強下地だけ先に入れておくことをおすすめします。
見た目はそのままで、必要になったときにすぐ取り付けられます。

浴室は壁の構造上、後から手すりを追加しにくいため、新築時から設置しておくことをおすすめします。
浴槽横・洗い場・出入口付近の3か所が特に有効です。


住宅の階段は原則的に、手すりの設置は義務付けされています。
車いす対応のキッチン・洗面台
すでに膝が痛い方や将来車椅子の生活になりそうな方は、カウンター下が開いた車いす対応のキッチンや洗面台も選択肢のひとつです。
ただし通常より高額になりますので、余裕のある方向けの選択肢です。

▶ 参考ブログ:二人暮らしの間取りも失敗するが、法則がわかると上手くゆく
5.トイレの間取りのポイント
トイレは老後の暮らしで毎日何度も使う場所です。間取りの段階でしっかり計画しておきましょう。
トイレの向きが重要
前の章で、トイレが引き戸になっていると、車いすを使う場合は開閉しやすいので便利とお伝えしました。
トイレに引き戸を取り付けられる間取りにするには、どのようにすればよいでしょうか。

まず一般的なトイレの大きさは約90cm×180cm(1帖)程度です。
このとき、180cm側(長手方向)が廊下に面するように配置すると設置できます。
間取りを検討する際にぜひ意識してみてください。
引き戸が取れない場合は折れ戸に
間取りの都合でどうしても90cm側しか廊下に面せず引き戸が取れない場合は、折れ戸タイプのドアを使うと開閉スペースを抑えることができます。

広さは広めが理想・取れない場合は引きドアという選択肢も
介助が必要になると、介護者が一緒に入るスペースが必要になります。
全体の間取りの都合にもよりますが、できれば1.5帖程度のゆとりがあると安心です。

1帖しか確保できない場合でも、最近では「引きドア」という全面開口できる製品があります。
開口部を広く取ることができるため、狭いトイレでも介助がしやすくなります。

LIXIL | リビング・寝室・居室 | ラシッサUD | 施工イメージ | 一般住宅
6.浴室の安全対策
浴室は住宅の中でも事故が特に多い場所です。
転倒だけでなく、入浴中のヒートショックや血圧の変動、高温・長湯による意識低下など、さまざまなリスクが集中しています。
間取りと設備の両面で備えておきましょう。
ヒートショック対策に暖房を
暖かいリビングから寒い脱衣室・浴室へ移動したときの急激な温度差が、血圧の急変動を引き起こすことがあります。
これがヒートショックです。
全室暖房が整っている北海道では比較的少ないとされていますが、どこにお住まいの方も脱衣室・洗面室に暖房を設置できるよう、新築時に計画しておくことをおすすめします。

乾きが早いタオル掛け兼用のパネルヒーターは人気があります。
手すりと緊急時の備えを
浴槽への出入りや立ち上がりの際、手すりがあると安心です。
4章でお伝えしたとおり、浴室は壁の構造上、後から手すりを追加しにくいため、新築時から設置しておくことをおすすめします。浴槽横・洗い場・出入口付近の3か所が特に有効です。
また、万が一意識を失った場合に備えて、浴室内からボイラーのリモコンや呼び出しボタンで家族に知らせられる設備を検討しておくと安心です。

ドアは引き戸が望ましい
浴室ドアが内開きの場合、万が一中で倒れると外から扉を開けられなくなるリスクがあります。
折れ戸か引き戸にしておくと安心です。
引き戸は、高齢者でも開閉しやすく開口できる幅が広くとれるので、将来的な介護にも対応できます。

ただし浴槽の向きや間取りによっては引き戸が取り付けられない場合もあります。
設計の段階で確認しておきましょう。

ユニバーサルデザインのユニットバスも選択肢に
予算に余裕がある方は、高齢者対応のユニバーサルデザインのユニットバスも検討してみてください。
手すりの配置や浴槽の高さ、ワンタッチ式の水栓など、老後の使いやすさを考えた設計になっています。

▶ 参考:TOTO ユニバーサルデザインバスルーム(サザナ・リモデルバスルーム)
また、介護用のバスリフト(浴槽への出入りを補助する昇降装置)を設置できる浴槽にしておくのも選択肢のひとつです。
ただし最近はデイサービスも充実していますので、あまりこだわらなくてもよいかもしれません。

7.夫婦別室の間取り
最近は夫婦それぞれの寝室を別にしたいというご要望も増えています。
就寝時間や睡眠の深さが違う、いびきが気になるなど理由はさまざまですが、老後はとくに睡眠の質が健康に直結しますので、夫婦別室はとても合理的な選択です。
ただし寝室が2部屋必要になりますので、間取りに余裕がある場合に検討してみてください。

その際は、完全に離れた部屋にするのは避けた方が無難です。
どちらかが夜中に具合が悪くなった場合に、気配がわからないと発見が遅れることがあります。

隣室か、引き戸一枚で仕切れる配置にしておくと、プライバシーを保ちながら緊急時にはすぐ気づける安心感があります。
▶ 参考ブログ:よく眠れるおしゃれな寝室の注文住宅の間取り②
まとめ
- 50代は、老後に備えた家づくりを始めるのに良いタイミング。住宅ローンも組みやすい
- 理想は平屋。難しければ、2階建てでも間取りの工夫次第で快適な暮らしは可能
- 余裕があれば小部屋を1階に。将来生活が完結できる間取りに
- 階段をつける場合は緩やかに。踊り場が設けられるのが理想
- 引き戸・フラット床・手すりの先行下地が老後の間取りの基本
- 寝室はトイレの近くが安心
- トイレは長手方向を廊下側にして、引き戸がつけられるよう考えてみる
- 脱衣室に暖房を新築時に計画しておくと、浴室でのヒートショック対策になる
- 夫婦別室は互いの気配がわかる距離に・間取りに余裕があれば検討を
次回パート②では、北海道ならではの玄関・カーポート・雪対策と照明計画についてお伝えします。
関連ブログも参考にどうぞ



今回のブログが少しでも皆様の間取りを決めることの参考になりましたなら幸いです。
最後までお読みいただき感謝いたします。
あなたの間取りがより良くなり、楽しく幸せに暮らせる家が建てられますように。
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ブログを書いている設計士の詳しいプロフィール
田中昭臣(たなかあきおみ)1級建築士、宅地建物取引士
一級建築士設計事務所「ライフホーム設計」代表

一級建築設計事務所「ライフホーム設計」のことはこちらのホームページからどうぞ。
