隈研吾設計「富山市ガラス美術館」建築士も驚いた珍しい斜め吹き抜け~有名な建物を見学しました、28、富山編

石川県立図書館のブログを書いたあと、「隈研吾さんの図書館だと思って検索して来ました」という方が意外と多いことに気づきました。

実は石川県立図書館を訪れる前日、富山で隈研吾さん設計の建物を見学していました。

訪れたのは1年ほど前になりますが、「富山市ガラス美術館」についてご紹介したいと思います。

 

富山市ガラス美術館の吹き抜け上部から見た内部の様子

 

1、富山市ガラス美術館とは

富山といえば、薬売りが有名でしたが、同時に栄えたのが薬の瓶に使われるガラス製造でした。

富山市は、市民に馴染み深いガラスに着目し、「ガラスの街とやま」を目指してきました。「富山市ガラス美術館」は、その一環として作られた施設です。

「TOYAMAキラリ」という複合施設の中にあり、同じ建物には富山市立図書館本館も入っています。

美術館と図書館、両方を気軽に行き来できるというのも、なかなか珍しい仕組みかもしれません。

 

富山市ガラス美術館の建物名サイン

 

 

2、目を引く外観~立山連峰をモチーフに

富山市ガラス美術館の北東方向から撮影したあ外観

設計を手がけたのは、世界的な建築家の隈研吾さんです。

外壁には御影石、ガラス、アルミという3つの異なる素材が、様々な向きで不規則に組み合わされています。

 

富山市ガラス美術館の外壁に使用されているガラス御影石アルミ

そのため、見る角度によって違った表情を見せる建物になっています。

館内で配布されているパンフレットには、「表情豊かな立山連峰をイメージした外観」と紹介されていました。

 

富山市ガラス美術館の正面玄関方向からの外観

写真ではわかりづらいかもしれませんが、確かに雪や岩を彷彿とさせる山々が連なっている感じがしました。

訪れた日はあいにくの曇り空だったのですが、天候や見る角度によって輝き方が変わるように計算されているそうなので、晴れた日にも見てみたいものでした。

 

富山市ガラス美術館の案内板

館内に掲示されている外観写真は白く輝いている感じがしますね。

 

 

3、建築士も驚いた、珍しい斜めの吹き抜け

単調に真っ直ぐ抜けるだけではない、印象的な吹き抜け空間

この建物で一番印象に残ったのが、2階から6階まで斜めに大きく抜ける吹き抜け空間です。

正直に言うと、1階から見上げただけでは、それほど開放感を感じませんでした。

 

富山市ガラス美術館1階ホール

ところが上の階に上がって見下ろしてみると、印象がガラリと変わります。

 

富山ガラス美術館の4階から見た吹き抜け

斜めに切り取られた空間が幾重にも重なって見えます。

大型ショッピング施設などによくある、単調に真っ直ぐ抜けるだけの吹き抜けとは違う、どこか品のある佇まいに感じました。

 

富山ガラス美術館のパンフっとにある各回の案内図

富山ガラス美術館の案内パンフレットより

 

柱を消し、また現す。斜め吹き抜けを支える構造の工夫

斜め吹き抜けを作るうえで、「柱のない空間」を成立させている点にも驚かされました。

木造住宅の通し柱のように、普通の建物であれば1階から最上階まで、同じ位置に柱がまっすぐ通っているのが基本です。

富山ガラス美術館の3,4階の吹き抜け部分

ところがこの建物は、吹き抜けが2階の北側から6階の南側へと、位置をずらしながら斜めに伸びています。

そのため、1・2階にあった柱が3・4階では姿を消し、5・6階でまた必要になるという、少し複雑な柱の配置になっています。

 

・実はすごい構造

専門的な話なので、この章は読み飛ばしてもOKです

地震が起きたとき、床は建物をしっかり支え、揺れに耐える重要な役割を果たします。

吹き抜けを作ると、その部分の床がなくなるため、建物としては弱点になります。

さらにこの建物は、吹き抜けが階ごとに位置をずらしながら斜めに伸びているので、地震の揺れ方も複雑になり、補強の難易度が上がります。

 

富山ガラス美術館の梁

吹き抜けのまわりを補強したり、制震装置を利用することで、この難しい構造を実現しているようです。

建物は鉄骨造で、構造が見えるスケルトンな建物なので、斜めの梁など補強の様子を見ることができます。

 

富山市ガラス美術館の斜めの梁が見える2階フロア

正直なところ、これほど複雑な斜め吹き抜けは、普通の設計士なら「難しすぎる」とあきらめてしまうかもしれません。

柱を消したり現したりしながらも地震にしっかり耐えられる建物に仕上げている、そのデザイン性と構造的な強さを両立させた設計スタッフの仕事ぶりに、感心させられました。

 

富山市ガラス美術館のエレベーター

エレベーターもスケルトンです。

 

・2024年の地震でも実証された、耐震性能の高さ

この制震の仕組みは、2024年1月の能登半島地震(富山市は震度5強)でもしっかり効果を発揮したようです。

図書館の本はほとんど棚から落ちてしまったそうですが、ガラス美術館の繊細な作品はほぼ無傷。破損はわずか3点だったそうです。

 

 

4、素材が生み出す、やさしい表情

硬質な外観とは対照的な、木のぬくもり

吹き抜けの周りには、富山県産の杉材を使ったルーバー(羽板)がいろんな角度で並べられていて、木のぬくもりが感じられるやさしい雰囲気を作り出しています。

外観の硬質な印象とはまったく違う表情で、その対比も楽しいところです。

 

富山市ガラス美術館の6日にあるルーバー木材

ルーバーは不燃加工が施されているそうですが、木の節目もそのまま活かされていて、自然な風合いが感じられました。

 

天窓から届く、やわらかな自然光

富山市ガラス美術館の天窓

吹き抜けの上部は天窓になっていて、南から差し込む太陽の光をできるだけ地面まで届かせるよう、あえてこの角度に設計されているそうです。

光の角度がぴったり合えば、下の階まで自然光が届く瞬間も見られそうです。

 

富山市ガラス美術館の2階から見た天窓

ちなみに吹き抜け部分はスパイラルボイドと表記されていました。

 

富山市ガラス美術館の案内板

直訳すれば「らせん状の大空間(空洞)」ですね。

 

 

5、図書館とガラス工芸の施設

3階から5階には富山市立図書館本館が入っていて、美術館と図書館が同じフロアを共有しています。

図書館の中にも自然光が入り込み、まるで森の中にいるような明るさと落ち着きを感じられる空間でした。こんな図書館が近くにあったら、つい長居してしまいそうですね。

 

富山市ガラス美術館の図書館

ガラス美術館には、常設展示室と企画展示室があり、さまざまなガラス作品を見ることができます。

常設展示室の見どころは、現代ガラス美術の巨匠、デイル・チフーリさんによるインスタレーション作品です。

6階の「グラス・アート・ガーデン」に展示されていて、色とりどりのガラスが織りなす空間は、写真で見る以上に迫力がありました。

こちらは撮影が禁止されているため、残念ながら写真はありません。ぜひ実際に足を運んで、その迫力を体感してみてください。

 

富山市ガラス美術館の展示室の様子

一方、企画展示室は撮影可能でした。

私が訪れたときは、「富山ガラス工房開設30周年記念展」という企画展が開催されていました。

並んだガラス作品はもちろんのこと、館長さんの熱いメッセージが掲示されていたのも印象的でした。

 

富山市ガラス美術館の館長のあいさつ文のプレート

ガラスの街とやまを支えてきた方々の想いが伝わってくるようで、企画展は訪れるたびに違った出会いがありそうです。

 

 

6、建築家「隈研吾」のプロフィールと、この建物が建てられた時期

自然素材を生かした建築家、隈研吾

隈研吾さんは1954年、神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院で建築を学んだあと、1990年に隈研吾建築都市設計事務所を設立されました。

木材や石、和紙など自然素材を積極的に取り入れた設計を得意とすることから、「和の大家」とも呼ばれています。

これまでに200を超えるとも言われる数多くの建築を、国内外で手がけられています。

 

国立競技場内部

国立競技場全体

代表作としてまず挙げられるのが新国立競技場です。

隈研吾さんの名前を一躍有名にした建物ですね。

このほか根津美術館、歌舞伎座、サントリー美術館、高輪ゲートウェイ駅など、誰もが一度は目にしたことのある建物が並びます。

長野県の飯山市文化交流館「なちゅら」も、隈研吾さんが手がけた建物のひとつです。

 

飯山市文化交流館なちゅら

飯山市文化交流館なちゅら

石川県立図書館と間違われてしまうのも、それだけ「有名建築家といえば隈研吾さん」というイメージが強いからかもしれませんね。

 

国立競技場より先に見せていた、素材への工夫

この富山市ガラス美術館(TOYAMAキラリ)が完成したのは2015年。実は、新国立競技場(2019年完成)よりも前に建てられた建物です。

新国立競技場は外壁にも木材がふんだんに使われていて、あれはあれで美しいのですが、屋外の木材は雨風にさらされるので、メンテナンスの手間がどうしても大きくなります。

 

国立競技場の軒裏

国立競技場の軒裏

一方こちらの富山市ガラス美術館は、外側には腐らない石・ガラス・アルミを使い、内側には木材を使うという組み合わせになっています。

建物を長持ちさせる面でも、とても理にかなった設計だと感じました。

 

富山市ガラス美術館キラリの北西方向から撮影された外観

まだそれほどたくさんの建物を見て回ったわけではありませんが、私が訪れた隈研吾さんの建物の中では、この富山市ガラス美術館がかなり好きな部類に入ります。

 

 

7、アクセスと見学所要時間

路面電車でのんびりアクセス

富山市ガラス美術館へは、JR富山駅から路面電車(市電)に乗って約10分、「西町」電停で降りるとすぐ目の前という好立地です。

 

市電の停留所の背景に富山市ガラス美術館が映っている画像

路面電車に乗る機会はなかなかないと思うので、移動そのものも旅の楽しみになると思います。

 

富山市の路面電車

ちなみに富山駅からは徒歩でも20分ほどで行けます。

天気の良い日は歩いて向かうのも気持ち良さそうですね。

 

見学の所要時間の目安

所要時間の目安は、建物を見学するだけなら30分程度。

ガラス美術館の常設展もあわせて見る場合は1時間ほど、企画展も含めるなら1時間半から2時間ほど見ておくと、余裕を持って楽しめそうです。

 

富山市ガラス美術館の企画展示の様子

 

入館料と、無料で楽しめる範囲

この建物は無料で見学することができます。

そのため吹き抜けを眺めながら、建物の上層階まで自由に上がることができます。

もちろん図書館の利用も無料です。

 

富山市ガラス美術館キラリの吹き抜けまわりのホール

美術館は有料ですが、常設展の入館料は200円とかなりお得な設定ですね。

企画展は、展覧会ごとに観覧料が異なりますので、事前に確認しておくと安心です。

 

 

8、まとめ

今回、富山市ガラス美術館を振り返ってみて、あらためて隈研吾さんの建築の面白さを感じました。

外壁は硬質でクール、内装は木のあたたかさ。

そしてデザインと構造、どちらも考え抜かれた「斜め吹き抜け」。

この対比した2つの魅力が、この建物をより印象深いものにしているのだと思います。

 

富山ガラス美術館の中にいるブログの作者

石川県立図書館の記事がきっかけで、思いがけず富山の建物をご紹介することになりました。

もし北陸方面へ旅行される機会があれば、金沢とあわせて、富山のこの建物にも足を延ばしてみるのもおすすめです。

 

関連ブログもどうぞ

今回のブログのように、見学した建物でまだ書いていないものもあるので、少しずつご紹介していきたいと思います。

最後までお読みいただき感謝いたします。

今回のブログが、みなさまの住まいの参考になりましたなら幸いです。

あなたの住まいがより良くなり、楽しく幸せに暮らせる家が建てられますように。

 

田中昭臣(たなかあきおみ)

1級建築士
1級建築設計事務所「ライフホーム設計」代表

 

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