1995年1月17日に阪神淡路大震災が発生し、今年で27年が経ちました。
犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。
この日は、私を含め建築に携わる者にとって、「家つくりの原点は、天災から命を守れること」だと思い起こす日になりました。
それでは地震に強い家にするにはどうすれば良いでしょう。
目次
1,地震で弱かった建物とは
2,被害から学ぶ地震に強い家や形
3,耐震等級~住宅は地震の強さによってランク分けされている。
4,地震に強いかを確かめる「構造計算」
5,構造計算されているのかを確かめる
6,最後に
1,地震で弱かった建物とは
近年、阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめ多くの地震による被害がありました。
建物の倒壊による2つの震災の例を見てみます。
阪神淡路大震災での被害
阪神淡路大震災は、震度7を初めて適用された大地震で「死者6,434名、行方不明者3名」住家については「全壊が約10万5,000棟、半壊が約14万4,000棟」と大きな災害になりました。
亡くなった方の7割近くが建物の倒壊による家屋の下敷きによるもので、その多くは建築基準法の旧耐震基準(1981年(昭和56年))以前に建てられいて、在来工法の老朽化した木造住宅が多かったようです。
震災後に分かったこと
阪神淡路大震災の後にいろいろ分かったことがありました。
国からは、補助金や税金などの優遇処置はあったもの建て替え費用までは出ませんでした。
また、住宅ローンは免除にならず、建て替える費用と壊れた家の住宅ローンの2軒分の返済をしていかなければなりませんでした。
地震保険は建て替え費用の半分くらいまでしかおりず、半分は負担しなければなりませんでした。(ちなみに火事で焼けても地震によるものなので火災保険は支払いはされませんでした。)
なかにはその当時、ハウスメーカーや工務店から「うちの建物は丈夫ですから、地震保険に入らなくても大丈夫」と言われて加入しなかった人も多かったこともわかりました。
(この震災以降、地震保険の加入率が一気に増えました。)
この災害をきっかけに、地震などの天災からは自宅は自分自身で守るしかないということが、広く知れ渡ることになりました。
胆振東部地震での家屋の被害
最近では私の住む北海道胆振東部で平成30年(2018年)に震度7の大きな地震が起きました。
被害は死者43人、住家については全壊469棟、半壊1660棟でした。
札幌でも震度6を、はじめて観測された地震でした。
倒壊した家屋の傾向
倒壊した家屋には似た傾向があったそうです。
それは「古い木造の店舗併用住宅」や「外壁を組積造(レンガ積み等)で床や屋根が木造の建物」で、これらの建物が大きな被害にあったそうです。
北海道立総合研究機構 (道総研)資料より
https://www.hro.or.jp/index.html
店舗付き住宅で被害が多かったのは、道路側に店の大きな出入り口や窓がある建物で、支える壁が少なく倒れやすかったようでした。
また、壊れた建物では壁も浴室の湿気で腐っていて、構造的な役割を果たしていなかったものもあったそうです。
組積造(レンガやブロックの家)の2階の床や屋根が木組だった建物も大きな被害が起こったそうです。
これは、地震の際に床や屋根が強くないと水平力(横揺れ)に対して壁の力が伝えられないからです。
段ボールの上蓋(ふた)と下蓋が無いと変形しやすいのと同じことです。
現在のブロックなどの組積造の床は、頑丈な鉄筋コンクリート造で造らないとならなくなっています。
軟弱地盤での被害
札幌市の清田区、東区や北広島市では、地盤の液状化現象による被害も多く出ました。
この液状化は、地震で揺れた際、地面の土が乾いた砂のように抵抗がなくなってしまう現象です。
液状化しやすい土地は、地表に比較的近いところに砂の層がある場合です。
砂のお城も、さらさらの砂だと作れませんが、水を含ませて作ってゆきます。
砂の層もある程度水分が含まれていたり、粘土のようなものが混じっていると液状化しずらいと言われている。
セミナーの様子。
ちなみにセミナーの資料に私も写真に写ってました。
地震に自信ある家にしましょう!
さて、自信を持てるにはどうすれば良いでしょう。
2,被害から学ぶ地震に強い家や形
耐力壁(強い壁)を多く配置しよう。
建物は壁が多いほど強くなります。
またその壁も、筋交い(すじかい)という斜めに補強した補強材が入ってたり、構造用合板(厚い丈夫な板)で打ち付けられているとさらに強くなります。そのような壁は耐力壁(たいりょくへき)と呼ばれています。
吉野石膏 https://yoshino-gypsum.com/
耐力壁はツーバイフォーであれば木質パネルの場合がありますし、鉄筋コンクリート構造だとコンクリートの壁になります。
壁を上手くバランスよく配置する
建物は角に壁がある方が、地震時にねじれが生じなくて強くなります。
また、縦方向と横方向(東西方向と南北方向)にそれぞれ多く壁がある方が、いろいろな方向で揺れる地震には強くなります。
たとえば、先の北海道胆振東部地震の店舗のように、道路側は壁が無いなどで全体のバランスが悪くなると、地震には弱くなります。
注文住宅だと、南側に大きな窓を付けた為、支える壁が無い間取りなどは失敗後悔しやすい例かもしれません。
道路面が窓や出入り口ばかりだとバランスが悪くなります。
その場合は、建物の角に壁を付ける間取りに出来ないかを検討する方が良いかと思われます。
上下階のバランスも大切も
地震時は弱い部分に、集中して壊れます。
出来るだけ、壁をバランスよく配置したほうが地震の力も分散してくれます。
また、1,2階の壁は同じ位置にある方が、力を支えやすく強い建物になります。
地盤の良いところで家を建てる。
これから土地を探して、注文住宅を建てられる方は、なるべく地盤の良いところを選ぶと地震に強い家になります。
同じ地震でも、揺れ方が違ってきます。
防災科学技術研究所 自然災害情報室 https://dil.bosai.go.jp/workshop/01kouza_kiso/03shindou.html
土地探しはハザートマップなどを利用
私の住む札幌では、JRの函館本線より南側が比較的地盤が良いとされています。
でも造成地で盛り土されたところであったり、以前、池だったり河川だったりすることがあります。、
地震に対して地盤が良いかなどが分かるハザートマップを市町村で配布していることがあります。
札幌市でも液状化などのハザートマップを出しています。
また地盤調査会社で付近のデータを持っている場合があります。
住宅会社や地元の設計士さんを通して、地盤データを見せてもらえないか相談してみるのも良いかもしれません。
札幌市 地震防災マップ https://www.city.sapporo.jp/kikikanri/higoro/jisin/jbmap.html
耐震性が維持できる家づくり
先の北海道胆振東部地震で浴室回りの壁が結露で腐っていて、構造的な役割を発揮できなかった例がありました。
結露などに強い高断熱高気密の性能の良い家にすることも大切です。
また地震に強い家を作っても、それが維持できないと肝心な時に役に立ちません。
また、住んだ後は、定期的に外壁や防水の点検を行い、維持メンテナンスすることも大切です。
雨水が侵入しないように定期的に点検することをお勧めします。
ひと休み、阪神大震災以降に変わった金物
阪神淡路大震災において、地震時に柱が土台から引き抜かれたケースが多く見られました。
その為、2000年からホールダウン金物と言う引き抜きに強い金物を、木造住宅に設置することが義務付けされました。
建築が始まりましたら、ハウスメーカーや工務店の設計図に金物が付くようになっているか、現場に取り付けられているかチェックしてみるのが良いかと思います。(建物の四隅についてることが多いです。)
3,耐震等級~住宅は地震の強さによってランク分けされている。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)というものがあり、その中のひとつに住宅の性能をわかりやすく表示する「住宅性能表示制度」というのがあります。
国土交通省 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000016.html
地震に強いかを表す「耐震等級」
この中で、地震に対してどれくらい強いかを表す「耐震等級」というのがあります。
耐震等級は3段階に分かれていて、一番地震に強いのが「耐震等級3」になります。
ランクの分け方は、等級1が建築基準法と同じくらいの地震力に対抗できるの性能(最低ライン)、等級2が等級1の1.25倍の地震力に対抗できる性能、等級3は1.5倍の地震力に対抗できる性能になっています。
耐震等級3クラスになると、大きな地震が来ても大きな被害が見られないようです。
熊本地震による耐震等級3の被害の比較
ちなみに長期優良住宅は、耐震等級2以上の性能が必要になります。
住宅性能表示制度は任意だが、メリットも
この住宅表示制度は、法律上(建築基準法)と違い、任意なものです。
申請費用などで概ね10万円から20万円ほどかかり、場合によっては間取り変更や、材料の変更などで建築費用が多くかかる場合もあります。
ただ、耐震等級2以上を取るといろいろメリットがあります。
たとえば住宅ローンの金利が優遇されたり、地震保険が割引になることがあります。
耐震等級3以上だと地震保険も50%割引になります。
フラット35S https://www.flat35.com/loan/flat35s/index.html
住宅性能評価表示協会 https://www.hyoukakyoukai.or.jp/seido/merit.html
長期優良住宅も取れれば、税金の控除なども受けられます。
国土交通省 認定長期優良住宅に関する特例措置 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000022.html
「天災は忘れたころにやっくくる」と言います。
日頃の備えが大切だということですね。
ちなみに「天才は忘れたころに」だと中学生まで思っていました。(笑)
4,地震に強いかを確かめる「構造計算」
耐震等級のランクを確かめるには、構造計算が必要になります。
また、法律(建築基準法)では、家を建てる際は構造計算を行って安全を確かめることになっています。
構造計算は3種類
構造計算方法は、いろいろありますが木造住宅において構造計算は主に3種類あります。
1,壁量計算(「かべりょう計算」もしくは「へきりょう計算」)
壁量計算とは建物に対して壁がどれくらいあるかを出して、建物の安全を確かめる構造計算方法です。
建物に対して基準以上の耐力壁の壁量があるか(壁量)、壁の配置バランスが良いか(四分割法)、
柱に取り付ける金物の接合方法は問題ないか(N 値計算法)なども計算して安全を確かめます。
簡易的な計算ですが、建築基準法ではこれだけでもOKとされています。
平成23年度「木のいえづくりセミナー」
http://www.mokushin.com/kinoie-seminar/section/section1-1.html
家の強さは壁ドンして確かめるのではなく、計算によって行われます。
2,住宅性能表示制度による構造計算(住宅表示計算)
住宅表示性能のランク付けのための構造計算です。
こちらも壁がどれだけ入っているかで耐震性を判断する、簡略化された計算方法です。
「屋根が軽いか」「雪の降る地域なのか」「地震が多い地域なのか」など、「1の壁量計算」よりも条件を加えて必要な壁の量の基準を決めています。
この構造計算は、さきの壁量計算のほかに、屋根や床組の強さ(床倍率)や柱と土台や梁をつなげる接合部分の強さ(横架材接合部の倍率)も計算します。
1の壁量計算より、少し計算が増えて壁が高くなりました。
3,許容応力度計算
今までの計算は、主に壁がどれくらいあるかを基に安全性を確かめてきました。
許容応力度計算は建物に外力が加わった際に、どれくらい変形するかを出して、それが安全(許容できる範囲)かを確かめる計算方法です。
外力とは、建物の重さ、雪の重さ、地震力、風圧力などです。
これらの力から、建物のそれぞれの柱や梁、基礎などが耐えられるかを検討します。
その為、かなり細かく計算されます。
国土交通省 https://www.mlit.go.jp/common/001185128.pdf
許容応力度のような高度な構造計算は、1級建築士で5年以上の経験を積んで、構造の試験に合格した専門の設計士が行うことが多いです。
大きな建物や鉄筋コンクリート構造などは、この資格を持っている構造設計1級建築士でないと、審査の際の構造計算を行うことは出来ないことになっています。
北海道は積雪のある状態での大地震は経験していない
私の住む札幌は、今年は記録的な大雪になっています。
幸い北海道は今まで、積雪の多い時期での大きな地震は経験していません。
その為、積雪の条件を加えた「住宅表示計算」もしくは「許容応力度計算」のほうが望ましいと思います。
最近の北海道は、温暖化の影響か水分を多く含んだ重たい雪も降るようになり、建物への負担が大きくなってきている感じがします。
安全性が高いのは許容応力度計算
住宅性能表示制度で耐震等級2以上の評価を得るのには、「住宅性能表示の壁量計算」か「許容応力度計算」のどちらの計算方法でも良いことになっています。
ただ、壁で判断する計算では、建物の形などによってはばらつきが出やすく、より詳しく構造計算される許容応力度計算の方が、同じ等級であれば「より安全」になるようです。
この3つの構造計算の中では、詳しく計算を行う許容応力度計算が一番安全な計算方法と言って良いかと思います。
地震がご心配な方は、許容応力度計算の方が安心かもしれません。
5,構造計算されているのかを確かめる
実は、あまり構造計算されていない新築住宅
住宅を建てる場合、法律上、構造計算をして安全を確認しなければならないことになっています。
鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC構造)、木造も3階建て以上は確認申請の審査時に構造計算書を添付してチェックしてもらっています。
ただし、木造(平屋、2階建て)は確認申請時に構造計算のチェックがありません。
その為、チェックされていないので、新築住宅の約8割が構造計算されていないと言われています。
構造計算してるか確かめてから着工を
構造計算を行うのは義務付けされていますが、工務店では苦手、ハウスメーカーの設計の人は忙しくて手が回らないという会社が多くあります。
地震から家を守るには、建築を行う住宅メーカーに構造計算しているかを確かめる必要があります。
聞いてみて「多分、設計の人がしてると思いますし、それに当社は実物大実験してるので安全で」という返答は、計算されているかはあやふやですね。
建物の強さは間取りによって違いますし、良い材料も適切な位置に無いと性能は発揮してくれないと思います。
間取りに合わせた構造計算を行うことが大切です。
「法律で木造は構造計算はしなくてよい」と言う住宅メーカーは止めた方が無難かもしれません。
「うちの大工はさんは腕が良いので」と言われることもあります。
腕が良いことにこしたことはありませんが、最近の家は住宅メーカーで指示されたプレカット(加工)された材料で作るので、構造計算されてないと大工さんの腕が良くても、地震の際はどうにもならないかもしれません。
安全なのは第3者にチェックしてもらうこと。
大きなビルなどの鉄筋コンクリート構造などは、構造計算が専門の1級構造建築士が行います。
その道のプロの彼らが構造計算を行って審査を受けても、指摘を受けることがあります。
自社だけで行う構造計算は、チェック機能がありません。
大手のハウスメーカーだから安心だというのは過信で、手の足りない設計部門では若い経験の少ない人が構造計算を行うことも多いようです。
住宅性能評価などの審査機関を利用して第3者に構造計算のチェックをしてもらうと、間違いが少ないかと思います。
住宅性能表示制度では第3者による設計審査だけでなく、現場で検査も行っています。
最後に
ちなみに私の家は構造計算しています。
北海道胆振東部地震に大きく揺れた際も、構造計算をしているから命を落とすまではないとパニックにならずにすんだ気がしました。
住宅の性能は構造計算されて初めて発揮します。
大地震に強い家を作るのに、ハウスメーカーや工務店にお任せだけでなく、お施主様ご自身で出来ることもあります。
耐震等級を上げたり、構造計算方法を選んだりすることです。
ただ間取りが変わったり、建築費用も上がる可能性がありますので、設計士さんなどに全体のバランスを見ながら相談されてみてはいかがでしょうか。
大事な家族や命を守る家です。
こちらのブログが少しでも参考になって、皆様の住まいが安心安全な建物になりましたなら幸いです。
下記に過去に書いた地震や構造に関わるブログを載せておきますので、よろしければお読みいただければと存じます。
自分で出来る耐震診断の方法
地盤の良い土地の探すには、誰に聞くのが一番か?
結露しない家にすることも構造的には大事
3年前に書いた阪神淡路大震災のお話
北海道胆振東部地震の話
構造計算していなければしてもらうことが大切。
家具の下敷きなならない間取りとは。
現場の清潔さも建物の性能に関係している。
海外の地震ではパンケーキクラッシュで建物が崩壊
当設計事務所でも「新築のプラン設計」や「間取りへのアドバイス(セカンドオピニオンサービス)」など皆様ののお手伝いさせていただいております。
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田中昭臣(たなかあきおみ)1級建築士、宅地建物取引士
建築設計事務所「ライフホーム設計」代表
*注文住宅の主としたハウスメーカーで設計を経験し独立。
(建築実績100棟以上、現在も月に2,3棟の設計業務に関わる)
貴方の想いをカタチに、一緒に作る住マイルな住まいを目指しております。
詳しいプロフィールはコチラ
・北海道札幌の設計事務所「ライフホーム設計」のこと
あなたの「思い」を「かたち」に「一緒に作る」注文住宅。
対話を大切し、住みやすい間取りのオシャレなデザイン住宅を作ります。
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